傷だらけ父さんのHappy Life Journey -マルファン症候群と共に生きる-

難病(マルファン症候群)をもち、これまで多くの手術を経験。そんな傷だらけ父さんの闘病記とハッピーな人生を追い求め挑戦する姿を紹介します。同じような境遇にある人、支える人達の不安を和らげ、諦めない気持ちへのエールになれば幸いです

大動脈解離 B型 ⑫人生3回目の大動脈手術(胸腹部大動脈置換)

手術に向かう心意気

 自身3回目となる今回の大動脈手術は、胸腹部大動脈を人工血管に置換する手術だ。大動脈の横隔膜あたりから股の付け根までに伸びる範囲で、わかりやすく外から表現するとみぞおちの少し上辺りから股までのざっと40cmくらいの大動脈を人工血管に換えることになる。

 今回は大動脈の直ぐ近くに存在する脊椎とその神経近くを手術するため、脚や下半身の麻痺が後遺症として起きやすいと手術前説明で聞いていた。ただしリスクは承知だ。抱えている大動脈瘤が一度破裂してしまったら助かる可能性は少ない。このまま血圧コントロールだけの保存治療を続けて生きていくのも辛い。ここはドクターを信頼して、リスクより将来の希望を取ることを選択した。自分で判断したこと。「なんとしても良くなってやる!生きてやる!」そんな強い気持ちで今回はこの日を迎えた。

手術当日の朝 

 脊髄ドレナージで背中にチューブが入ったまま前日の夜を過ごした。背中にチューブが入っているので姿勢を気にしながら寝ていたが、大手術の前とは思えないほど寝起きはスッキリとしていた。
 新型コロナ感染の拡大に伴って家族との面会は制限されていた。前日の夜の段階では、手術室に行く前には奥さんや家族には会えることになっていたのだが、4月2日の朝の段階で手術前であっても一切家族とは会えないことになった。これはつまり、手術前入院(3日前)に奥さんにあったきり、これから退院までずっと家族と会えないことになる。いままでの手術、入院では、奥さんや家族、友人が入院中にお見舞いに来てくれて元気を貰えたが、今回はそうはいかない。退院まで全て一人で頑張るしかない。
 当日朝に面会不可が伝えられたので、すでに奥さんは病院に向かっていた。父親も前日に実家の愛知から神奈川まで来てくれていた。わざわざ来てくれたの会えないままになってしまった。2人には申し訳なかった。ただコロナ対策で仕方ない。病院にコロナを持ち入れてもいけないし、2人が人込みの中でコロナに罹ってもいけない。
 手術室に移動するまであと20分。なんだかドタバタで、家族とも会えなかったなぁと思ってたところに、奥さんから電話がかかってきた。病室のある7階の談話室から外を覗いてほしいと。手術着のまま談話室に移動して病院の外を見下ろすと、近くの歩道に奥さんがいた。お互い携帯電話を耳にあてながら「体調は大丈夫」、「面会できなくなってごめん」みないな話をちょっとしたあと、窓から手を振り奥さんに「頑張ってくるよ!」と告げて、予定通り8時50分に徒歩で手術室に移動した。

手術開始

 人生3回目の大動脈手術で初めての神奈川の病院。病院ごとに色々違いがあって興味深いが、この神奈川の病院は大動脈手術の実績も多く、随所に手際の良さを感じる。どの処置を受けるにしてもエキスパートの集まりといった感じだ。
 手術室までは歩いて行き、手術台に自分で横になった。これまでの経験から手術台に昇ったあとは、点滴入れたり、尿カテーテル挿入があったり、いくつか痛みが伴う準備もあるだろうなと、警戒していた。
 ところが手術台に昇った後に聞いてみると、尿カテーテル挿入は麻酔で眠りに落ちた後にやってくれるとのこと。そして、動脈に点滴を指すAライン確保も麻酔が掛かったあとに入れるとのこと。手術部や下半身の体毛の処理(いつもはバリカンで術前に自分で剃ったりするのだが)も麻酔がかかったあとにしてくれるみたい。あれ?全部麻酔が掛かったあとにしてくれるみたい。
 手術台に乗ってから、そんな会話をしたあと麻酔の点滴が入れられた。麻酔が入りだして眠りにつくまでの20秒ほど、いつも通り周りのドクターやスタッフを見ながら「この人たちなら大丈夫。よろしくお願いします。終わったらきっとよくなってる。よし、頑張るぞ。」そう心で独り言をつぶやいているうちに、麻酔が効き、意識はなくなっていった。
 ちなみに、今まで経験した2回の大動脈手術と同じで、麻酔が覚めてICUで起こされるまでは真っ暗闇だった。夢をみることも、幽体離脱することも何もなかった。今回は心臓を止めたり体温を下げたりする事はなかったが、ドクターいわく「人間が受ける一番大きい手術」とのこと。いま考えてもすごい手術をして貰えたと感謝でいっぱいだ。

手術概要

 今後、同様の手術を受けるかもしれない人の参考になれば、大きな手術だけれど乗り越えて元気にしている私みたいな人もいると励ましになればと願い、手術概要を下記にまとめます。

病名: 胸腹部大動脈瘤Ⅲ型(胸腹部大動脈の最大径は4.9cmまで拡張しておりマルファン症候群も考慮して手術適応)

手術名: 胸腹部大動脈人工血管置換術

手術における皮膚切開:左側を背中から股の付け根に向けて50cm切開(側方胸部および腹部切開)

体外循環実施:手術する大動脈の代わりに体外循環装置によって全身に血液を流す(循環させる)

予定箇所を人工血管に置換。

腎臓に行く血管、胃腸に行く血管、脊髄に行く血管(肋間動脈)などを再建。

止血と閉胸。

手術時間: 8時間ほど

術後の後遺症:重大な後遺症はなし

(但し退院後に術後リンパ漏、逆行性射精となる。これらについては後日、記事をアップします)

下記写真(横からみたCT画像)の赤枠部分が今回の手術で人工血管に変わった部分。置換手術前の拡張した状態の大動脈については→コチラ。ピンク枠部分は前回の手術で人工血管にすでに置換されている部分

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