大動脈解離 B型 ⑥人生2回目の大動脈手術(遠位弓部下降大動脈置換)
手術前の大動脈瘤の状態
私のとって人生2回目となる大動脈の手術は、遠位弓部下降大動脈という箇所の手術になりました。心臓からスタートする大動脈が、頭と両腕にいく分岐部分を超えたあとの部分から横隔膜あたりまでに伸びる範囲を遠位弓部と呼ぶようです。わかりやすく外から表現すると鎖骨の下あたりからみぞおちの辺りまでの範囲になります。長さでいうとざっと20センチほど。
大動脈解離(B型)を発症してから3ヶ月間でこの箇所の大動脈瘤(解離性大動脈瘤)の直径は53mmを超えていました。通常はこの箇所の大動脈の直径は500円玉くらいと言われています。その部分の大動脈が裂けた状態でコーヒー缶を超える太さと大きさまで拡張していると考えると、体の中に時限爆弾を抱えて生きているようで、常に心配がありました。
ただ、この裂けて広がった大動脈を手術して人工血管に換えるとしても、その大動脈の直ぐ近くには脊椎があり、手術は難易度が高く、重い後遺症がでるリスクもあると聞いていました。
手術のリスクがあるとは分かってはいましたが、不安の方が大きく、正直早くこの裂けた大動脈を取り除きたいとずっと思っていました。また日頃の生活で苦痛だった足の痛み(間欠性跛行)とお腹が常に具合が悪いこと(虚血)が良くなるのであるならと、手術を受けることに迷いはありませんでした。
手術前入院
手術予定日の4日前から入院していろいろと検査や準備をしました。手術前入院の間には、採血、新エコー、心電図、レントゲンなどの検査がありました。
また、この病院では手術に向けて自分自身で体毛をバリカンでそりおとす準備もしました。今まで経験してきた手術前のときは、基本的に体毛は手術時に処理されていることが多かったので自分で事前処理するのは珍しかったです。そり落とす作業はシャワー室で自分でできる範囲を自分自身でやったのですが、意外と体力を使い、正直どっと疲れたことを覚えています。
ちなみに手術前入院の経験から、これから大手術を予定される方におススメしたいことがあります。それは“呼吸の練習”を手術前にしっかりとしておくことです。大動脈解離を発症し緊急搬送されたときは、肺の機能が弱り、回復が進まず辛い思いをしました(その時のICU~入院治療の記録は→コチラ)。
その辛い思い出もあり、手術前入院の間には、病院で渡された呼吸訓練機を使い、しっかりと呼吸(息を吸い込む)練習をしました。その甲斐もあって、今回の手術後には肺に関わるトラブルは全くなく、スムーズに回復することが出来たました。
ちなみに、今回の2回目の大動脈手術から2年半後に自身3回目となる大動脈手術をまた経験することになるのですが、その時も手術前入院する前から自宅で呼吸器訓練機を使って練習しました。3回目の大動脈手術では手術中に肺に穴が開くなど肺に負担は多くかかることはありましたが、手術後は呼吸・血中酸素濃度のトラブルはなく、順調に回復することができました。この経験から、この呼吸訓練機を使った呼吸練習を強くオススメします。
血圧に対する考えの違い
手術内容については事前に心臓血管外科の執刀医から聞いていたので、手術前入院の時はドクターが様子を見にきてくれる時に少し話しをしたのみでした。ただ、入院初日に、このドクター(執刀医)との会話で今までの循環器内科のドクターとの違いを強く感じることがありました。それは血圧に対する考え方です。
執刀医(心臓外科)はその時に服用している降圧剤と、その時点の血圧の値を聞いてとても驚いていました(同じ病院なのに。。。)
私自身も血圧が低く抑えられていてめまいを感じていたので、飲む量が多いのではないかとは感じていました。それでも、安静と血圧を抑える必要がある大動脈瘤を抱えている身なので、その拡張や破裂リスクを抑えるにはやむなしと考えていました。ただ、心臓血管外科の執刀医は少し違って「めまいが出るほどは抑えすぎだ。」と考えていました。
なお、この時から2年半後に3回目の大動脈手術を別の病院で受けるのですが、その病院の心臓血管外科のドクターらも基本的には降圧剤で血圧を低く抑えることや、目安にする血圧に対する考えはいままで会ってきた循環器内科医とは違いました。
今まで、自身の大動脈解離、大動脈瘤に関して多くのドクターと話したり、治療を考えてきましたが、内科医は、”薬によって病気を抑えたり、治そうとする”。一方で外科医は、”手術や技術で病気を治そうとし、薬は最低限で十分と考えている“。という傾向があるように感じています。専門を考えれば当たり前かもしれませんが、同じ大動脈瘤といっても話す相手によって治療方針は変わるのだと思います。この経験もあり、積極的に自身の病状に合わせた治療について調べたり、その治療を得意とする病院を探すようになりました。
手術当日
大動脈解離を発症してから約3か月半後の2017年10月末日の午前10時ころ、奥さんと実家から駆けつけてくれた家族に見送られ手術室に入りました。前回の大動脈基部置換の手術から14年ぶりの大手術。手術室までは歩いて行き、手術台にも自分で横になりました。
まず手術台の上で尿カテーテルを入れる事となりましたが、これが痛い。その上、なかなか上手く入らなかった。予想はしていたが、早々に諦めて麻酔で眠りに落ちた後に入れてくれることになりました。そして、酸素マスクをつけ、腕に刺した点滴から麻酔が入ると数秒で眠りに入りました。
前回の大動脈の手術と同じで、麻酔が覚めてICUで起こされるまでは真っ暗闇。今回も夢をみることも、幽体離脱することも何もなかったです。
なお、今回も前回の大動脈の手術と同様、心臓を止めて体温を17度まで下げる手術になりました。人生で2度心臓が止まっている。そう考えると、色々な困難や出来事も、ちょっとやそっとの事では物怖じなくなる。そうそう怖いこともない。”助けてもらい、生き長らえたこの人生、あとはやれる事を精一杯やるだけだ“ と思うようになるのもこの経験が大きいからですね。
手術概要
今後、同様の手術を受けるかもしれない人の参考になればと願い、手術概要を下記にまとめる。
病名: 遠位弓部下降大動脈瘤
(胸部大動脈の最大径は5.3㎝ マルファン症候群も考慮して手術適応)
手術名: 胸部大動脈人工血管置換術
手術方法:
左胸を切開(20cmほど)して開胸。
足の付け根(鼠蹊部)も小切開。
人工心肺にして、全身冷却。心臓を化学的に止める。
脳・脊髄保護の為、超低体温循環停止法のもと逆行性脳循環を実施。
その間予定箇所を人工血管に置換。
分岐(脊髄に血液を送る肋間動脈)を再建。
全身加温、心臓を再び動かし、人工心肺を外して閉胸。
手術時間: 8時間ほど
術後の後遺症: なし
(写真の青四角部分が今回の手術で人工血管に変わった部分。置換手術前の拡張した状態の大動脈については→コチラ)