傷だらけ父さんのHappy Life Journey -マルファン症候群と共に生きる-

難病(マルファン症候群)をもち、これまで多くの手術を経験。そんな傷だらけ父さんの闘病記とハッピーな人生を追い求め挑戦する姿を紹介します。同じような境遇にある人、支える人達の不安を和らげ、諦めない気持ちへのエールになれば幸いです

”マルファン症候群” をはじめて耳にした日。自分の経験から子供にしてあげられることを考える。

 2020年時点で36年間の人生で経験した2回の大動脈解離(19歳でスタンフォードA型 と32歳でスタンフォードB型)は、ともに私がもつ、遺伝性の難病 ”マルファン症候群”に起因していると考えられている。

 いまでこそ「マルファン症候群の人は、結合組織が弱くて、血管とか関節に関する病気になりやすいんですよね。」と話せるようになったが、そもそも私がマルファン症候群をはじめて耳にして認知したのは、いつだったであろうか。

 実は、小学校高学年の頃には既に「マルファン症候群じゃないか」とドクターに言われていた。

 小学生の時はいつもクラスの中で1,2番に背丈が高い方で、体も大きく力も強かったので、体育や運動は好きだったし、スポーツは球技以外は得意だった。さらに小学校4年、5年の時には校内マラソン大会で1,2位を取るなど持久力もあった。その為、高学年の時には陸上大会(長距離走)の学校代表に選ばれたりもした。ただ、そのことが自分自身がマルファン症候群であると気づかせるきっかけとなった。

 きっかけは陸上大会へ向けた特別練習中に「走っていると心臓あたりがなんかチクチクする」と違和感があったことだった。その症状を心配した親が近所の小児科クリニックに連れて行ってくれた。その小児科では、心臓のことは調べられないからと、隣町にある大学病院に紹介状を書いてくれた。そこでは、名前は忘れてしまったが、まずまず高齢の女医さんがいろいろな検査をしてくれた(自転車をこぎながらの心電図や、心エコーをしてくれたことを覚えている)。

 一通りの検査を終えて、そのおばあちゃん先生は「心臓の弁にちょっと血液の逆流があるねぇ。手足も長い方だし、マルファン症候群かもしれないね。いますぐ手術が必要とかではないけれど、できたら激しい運動は避けてね。運動するなら水泳とかがいいかなぁ。」と優しく言ってくれた。それがマルファン症候群を初めての耳にした日だった。

 その診断結果を受けて、残りの小学校生活ではマラソンの学校代表もやめて大人しくしていた。ただ、中学校に入ると、激しい運動しても前みたいな心臓の違和感を感じることは無くなり、むしろ周りの皆より運動がますます出来る方になってしまったので、すっかり激しい練習や運動が好きになってしまっていた。すっかりマルファン症候群といわれたことは気にしなくなってしまっていた。

 高校生になると全然勉強もせずにやさぐれた感じになっていた私に母が近所の空手道場のチラシをみせて「これでも行けば?」と勧め、それから空手にハマるようになった(漫画みたいな話)。そんなこんなで高校からはよりキツイ運動にハマり、大学では極真空手をするくらい心身ともに強くなっていた。マルファン症候群であることは、健康診断のときに口頭で伝える程度で普段の生活ではまったく気にすることはなくなっていた。

 そして19歳の大学2年生の時、突然 大動脈解離(スタンフォードA型)は起きた。

 いまであれば「マルファンなのに空手なんて激しい運動をしていたせいだよ。」と言われそうだが、自身の2回の大動脈解離の経験から決してそうは思っていないし、空手を勧めてくれた母を責める気は全くない。むしろ、縛り付けることなく、夢中になれる選択肢・機会をくれた母に感謝している。

 今後、2回の大動脈解離の体験記を投稿していく予定だが大動脈解離を引き起こした原因は、”寒さなどの物理的なストレスと、仕事などのストレスを回復させることのできなかった深夜労働、長時間労働、寝不足であったと考えている。むしろ、さわやかに汗を流し、ストレスを発散させて、体のキレもすこぶるよかった(細マッチョだった)大学生のあの頃が懐かしい。

 いまの時代、”マルファン症候群” とインターネットで検索すれば情報があふれているし、普段の生活で注意することも分かる。また大動脈解離が起こる前に予防・治療の方法もある。逆に情報がありすぎても、経験がないことには不安や神経質になることもあるだろう。

 私の場合、マルファン症候群と認識してから大動脈解離が起こるまでの8年間特別なケアはせずに、やりたいように学生時代を楽しんでいた。だからこその宝物のような思い出が一杯あるので、それはそれで良かったと思う。ただ、もしあの時に今の知識があったのなら、18歳くらいから定期的にCTと心エコーの検査を受けて、解離が起こる前に事前治療をする機会を見定めただろう。

 マルファン症候群に関係する病気の症状やその進行は人それぞれ個人差はあるだろう。ただ、マルファン症候群の遺伝子を引き継いだ子供のいる親でもある私としては、自分の経験からも ”マルファンだからと何かを強く制限することなく、好きなことが楽しくできるように、色々な事ややりたいことが経験できるように” を意識し、彼らの将来を考え、子育てしている。

 小学生から大学までの期間、子供は本当に貴重な時間を生きる。子供らしく遊んで、怒って、笑って。それぞれのステージで嬉しいことも辛い事も色々経験しながらだんだん大人になっていくだろう。そんな彼らの満面の笑みを見るのは最高に幸せだ。一方で、大動脈解離は突然来る(私なんて2回目の大動脈解離は発症の数週間前CT検査で問題なかったのに...突然だ)。そうならないために、定期的にCTと心エコーの検査を受けて、解離が起こる前に治療をする。それができていれば、マルファン症候群であることを子供の内に分かることが出来た幸運を享受できていると言っていいと思う。 

 もしマルファン症候群と診断された子供の育て方に不安を持つ親御さんがいれば、マルファン症候群と診断されて小学校から学生時代を過ごした元マルファンキッズとして、そして学生時代と社会人になって両方で大動脈解離にもなった経験者として私は、

マルファンじゃない子と同じように、過剰に制限することなく、こどもらしく伸び伸びと育ててあげればいいと思う。ただ10代後半には症状が出やすくなる傾向があるのは間違いないから、定期的にCTと心エコーの検査を受けて、心臓・大動脈関連の異常が起こる前にドクターの判断に従って、大動脈解離などが起きる前の治療/手術を一緒に決断・サポートしてあげる。それができれば、マルファン症候群の子供の親として100点だと思いますよ。

と僭越ながらアドバイスするだろう。