傷だらけ父さんのHappy Life Journey -マルファン症候群と共に生きる-

難病(マルファン症候群)をもち、これまで多くの手術を経験。そんな傷だらけ父さんの闘病記とハッピーな人生を追い求め挑戦する姿を紹介します。同じような境遇にある人、支える人達の不安を和らげ、諦めない気持ちへのエールになれば幸いです

良き患者であるススメ ③せん妄を理解する(ICUの期間をより負担なく乗り切る)

 これから手術や入院、通院があり得る方へ、経験談を交えていまの段階からできることのおススメを紹介する「良き患者のススメ」シリーズ。今回は「せん妄」について自身の経験も踏まえて、せん妄を事前に理解してICU滞在期間を少しでも負担を少なくして乗り切るススメを紹介します。(過去の記事を含め下記カテゴリーにまとめています)

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 皆さんは「せん妄」もしくは「ICU症候群(シンドローム)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。私は2回目の大動脈解離後のICUで精神科医のから聞くまで、せん妄について聞いたことも、知っていることも全く無かった。ドクターが説明してくれた資料をもとに「せん妄」(ICU症候群とも呼ばれる)について簡単にまとめると 「せん妄」は、

・脱水、感染、痛み、薬、手術など身体に負担がかかった時に生じる脳の機能の乱れのことで、手術後やICUにいる時に起こりやすい。

・病院を家と間違える。家族のことがわからないなどの認識障害が起きる。

・治療していることを忘れて、点滴などのチューブを抜く、ベッドから落ちるなど危険な行動をとる。

・怒りっぽくなったり、興奮しやすくなる。

・見えないものが見えたり(幻覚)、ありえない事を言う(妄想)

 ざっと見ると、結構やばい症状が現れるようだ。初めて説明を受けた時は、正直聞く耳持たずで、「私は大丈夫。」と思っていた。ただ、突然の大動脈解離と3度の大動脈手術で4度ICUにお世話になった私は、幻覚も、妄想も、興奮しやすくなることも、ベッドから飛び降りようとしたことも、点滴を外そうとした事も全て経験がある。今はその経験のお陰(?)で、せん妄を楽しんだり、せん妄が極力起きないようにできるようになった。

 「せん妄」があり得ると事前に理解しておくと、ICUの辛い期間の負担を少しでも和らげることができるし、家族にとっても、患者からの暴言などによるショックを和らげる事に役立つ。また、ICUで看護師さんや、ドクターの時間的、精神的な負担を減らすことができる。下記に私の「せん妄」エピソードと、経験から導いた予防方法を紹介する。これから大きな手術がある方、ICUのお世話になり得る方、またその家族の方々に是非、是非参考にしてほしい。

見えないものが見えたり(幻覚)、ありえない事を言う(妄想)

 経験した中で顕著にせん妄を感じた症状が幻覚と妄想だ。2回目の大動脈解離で搬送されICUで保存治療となった期間に多く体験した(その時のICU、入院の記録については→コチラ)。高熱と痛み、痛みを抑えるために点滴で入れられている強い薬(鎮痛剤)、機械から発せられるピーポー、ピーポーという音とオレンジ色に点滅する光(血圧や体温が一定値を超えると機械が警報を出して看護師さんに伝える)で脳は限界を感じていたのだろう、悪夢と幻覚、幻聴の症状を発していた。

 ベッドは棺桶のように狭く感じ、マットレスはウォーターベッドのようにフワフワし、溺れる感覚に襲われる。少し動くとチャポチャポと水が動く音が聞こえる。“この状況から逃げ出したい。” 強くそう思った。

 少し眠りについても逃げ出したい状況は続く。燃え盛る炎が渦巻く空間で手を繋いでいた息子と離れ離れになる悪夢を見た。悪夢から覚めた瞬間、汗でびっしょり。機械は高熱を知らせるアラームでけたたましく鳴っていた。

 ICUで3-5日目の症状が落ち着いてきた期間にもせん妄は続いていた。昼や夜にウトウトとすると、病室内やディズニーランドのようなカラフルな空間を低空飛行で飛び回る夢を見た。ある日はSF映画のように、バーチャルな画像で映る外国人を相手に、空中に浮かぶ表やグラフを説明しながら英語で会議する夢を見た。ただ、この夢が普通の夢と違うところは、目が覚めても続くという事。まぶたを閉じて目の前に広がるのは暗闇では無く、目を開けている時と同じ鮮明度で広がる、夢で見ている世界の続きだった。

 この頃になると幻覚を見ていることを認識できるようになり、日中にあえて目を閉じてカラフルな世界を飛び回ったり、近未来の英語会議を楽しんでいた。英語会議では英語でブツブツ喋ったり、手を動かしたりするので血圧が上がってしまい、様子を見に来る看護師さんに迷惑をかけていた。ただ、幻覚が起きていると認識できるようになってからは、日中にしっかり起きて、夜にしっかり寝るということ意識して取り組むようになり、幻覚症状は徐々に消えていった。

点滴などのチューブを抜く、ベッドから落ちるなど危険な行動をとる

 せん妄症状を発症し、ベッドの上から逃げ出したいと思った時は、点滴を外しベッドから飛び降りようと考えたこともある。ただ、不幸中の幸いで、痛みで体をそこまで自由に動かすことはできなかった。

 2回目の大動脈手術後のICUに移った手術当日の夜、「暴れて点滴のチューブを取ろうとしたらしい。」と家族から聞いた。全身麻酔からしっかりと目覚める前だからか、私自身はその記憶は全くなかった。3回目の大動脈手術の後は、目が覚めた瞬間に人工呼吸器がまだついていて、呼吸がうまくできずパニックになった。ただ、チューブを外したらマズいと意識が働き、冷静になり看護師さんにヘルプの合図を送った。経験と認識がマズい行動を防いだ。ちなみに、暴れてチューブを外そうとした時は、家族は看護師に「暴れる時は手足を縛ることもあります。」と伝えられ、理解し、承諾していた。適切な処置を受ける為に、家族も含め ”知っておく事“、”理解しておく事“は大切だ。

家族のことがわからない。怒りっぽくなったり、興奮しやすくなる

 会社の先輩が同様の大動脈の手術をした時に経験したと聞いた。先輩は物腰柔らかく社交的で面倒見がよく、家族も大切にしている私にとって尊敬する人の一人だ。先輩の退院後聞いたことが、「手術後の2、3日間、奥さんに向かってボケぇとか暴言ばかりで大変だったみたい。でも自分はずっと違う世界にいる感じで記憶が無かったんだよね。」と。奥さんも「その時は本当辛かった。なんでこの人は、こんなに暴言を浴びせるのって。」と言っていた。その時は”そんなこともあるのかぁ”程度にしか思っていなかったが、今はせん妄ならそんな事あり得ると理解できる。私の奥さんは、一緒にこのご夫妻の話を聞いていたから、理解と覚悟はできていた(幸い私は暴言とか家族のことがわからなくなる症状は経験していないが)。

 家族のことを忘れられたり、暴言を浴びさせられるといった事は、サポートしている家族にとって一番つらい症状だろう。ただ、“これはせん妄の症状の一つ。数日後にせん妄もなくなっていけば、以前のあの人に戻ってくる。”と事前に理解して、覚悟ができていれば、家族にとってもダメージを和らげることができるだろう。

予防方法・対処方法

 年齢や生活習慣などの要因によって、せん妄の症状の出方は違うらしいし、個人差があってせん妄が出るかでないかの予想、予防は難しい。ただ、私の経験を通しておススメできる対処方法はいくつかある。参考にして欲しい。

・せん妄について患者、家族ともに理解しておく事

・せん妄症状が起きてもパニックにならない事。パニックになりそうになったら看護師さんにヘルプを伝える事(看護師さんはせん妄について対応に慣れている)

・せん妄が起きていると理解したら、冷静に状況を捉える事。(日中の活動を活発にして夜に眠るリズムを作れそうなら、せん妄症状の幻覚を楽しむこともありかと思う。)

・一番重要な事は、痛みや騒音、光でオーバーヒートしている脳みそを休めてあげる事。ベストは日中に出来るだけ起きて、夜しっかり寝ること。それが難しければ、目を閉じて無心でいること。ちなみに、3回目の大動脈手術後のICUでも幻覚を少し経験したが、せん妄が起きだしたと理解して、脳みその休息を意識し対処したので幻覚を楽しむ(?)間もなく直ぐに症状は消えてしまった。